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地域中核病院としての医療連携機能強化への取り組み

2010年12月
中島 正勝

≪目 次≫
1.はじめに

2.医療制度改革と医療提供体制の動向

3.病院における医療連携部門の役割と機能強化

(1)地域中核病院の医療連携部門に求められるもの

(2)医療連携機能強化への取り組み

①役割の明確化と機能組織の構築

②ケーススタディ(収益シミュレーション)

③機能強化に向けたポイント

4.まとめ
「引用文献」

8「参考文献」
1.はじめに

「医療崩壊」が叫ばれて久しく、現在もなお全国各地で進行している。特に地方での「地域医療の崩壊」が顕著になり、2003年以降、自治体病院でも医師不足や赤字経営などの理由で診療科の閉鎖、病院の閉院や休止、ダウンサイジングや経営形態の見直しなどが行われている。 過去に5回実施されている医療法の改正では、改正毎に医療施設の質的充実が推進され医療機能の役割分化と連携が強調されており、第5次改正(2006年)では患者中心の医療の実現を謳い、地域の医療・介護・福祉資源を効率的に活用した「循環型地域医療連携システム」の構築を保健医療計画に盛り込み、実効化することが求められた。また、診療報酬においては、医療法の改正内容に応じて点数項目や加算項目が設定され、制度の推進を誘導している。医療費抑制策が継続されている情勢の中、今後特に注力していかなければならないテーマが「医療連携」であり、地域中核病院としての役割を担う自治体病院において「医療連携機能強化」は、地域でのイニシアチブをとり医療資源を有効かつ効率的に活かすための手段であり、昨年度に作成された「公立病院改革プラン」においても経営戦略の柱の一つとなっている。 本論文では、「医療連携機能強化」への取り組みとしての「病院での医療連携部門の役割の明確化と体制強化」に焦点を絞り、現在実施しているコンサルティングの内容を基に、各病院への実務に応用できるようコンサルタントを目指す者としての視点で論じる。
2.医療制度改革と医療提供体制の動向 医療法が1948年に制定され医療提供体制の確保が推進されていたが、急速な高齢化や生活習慣病の増加などの疾病構造の変化、医療技術の進歩・普及などによる医療費増加及び無秩序な病院病床の増加に歯止めをかけ、医療提供体制の適正化を図るために1985年に第1次医療法改正が行われ、改正毎に医療機能の分化と連携に向けた方針が色濃くなっている。(図表1)(1) 第3次医療法改正(1997年)では、医療機関の機能分担の明確化(大病院への外来の集中の是正とかかりつけ医の普及と定着)を目的として地域医療支援病院が創設され、第一線で地域医療を担うかかりつけ医機能を有する診療所、中小病院の支援を通じて地域医療の確保を図る地域の中核的病院として地域医療支援病院を医療法上新たに位置づけた。第4次医療法改正(2000年)では、「その他病床」を「一般病床」と「療養病床」に区分し、医療連携を通じて地域(複数の医療施設)での医療の完結を目指すこが明確にされた。また、第5次医療法改正(2006年)では、医療計画制度の中で医療機能の分化・連携を推進することを通じて、地域において切れ目のない医療の提供を実現することにより、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保するという基本方針が示された。さらに、都道府県の医療計画において明確にする内容として、4疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)、5事業(救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児医療)が挙げられた。また、それぞれについて、必要となる医療機能及び医療機関の名称を明記することが求められ、地域医療連携の総仕上げの様相を呈しているといえる。 医療制度の流れや各地域での医療提供体制の状況を勘案すると、病院の経営には医療連携をいかに充実させるかが非常に重要な課題であり、医療連携の波に乗れない病院は淘汰されてしまう時代だと言える。
図表1 医療法改正と医療連携(1)項 目 改正の趣旨 主な改正内容第1次改正(1985年) ・量的整備は達成・医療資源の地域偏在の是正と施設の連携を推進 ・都道府県医療計画制度の導入第2次改正(1992年) ・施設機能の体系化・患者に対する必要な医療情報の提供 ・医療提供の理念規定の整備・特定機能病院及び療養型病床群の制度化・広告規制の緩和第3次改正(1997年) ・情報提供体制、機能分担の明確化及び連携を推進 ・医療提供に当たって患者への説明と理解・地域医療支援病院の創設・広告事項の拡大第4次改正(2000年) ・良質な医療を効率的に提供する体制を確立・情報提供の推進および医療従事者の資質の向上 ・その他の病床を療養病床および一般病床に区分第5次改正(2006年) ・患者の視点で質が高く効率的な医療提供体制を整備 ・医療計画の見直しによる医療機能の分化・連携の推進・都道府県による医療情報の公表制度の創設
3.病院における医療連携部門の役割と機能強化(1)地域中核病院の医療連携部門に求められるもの  医療機能の分化と連携は、各病院が明確な機能分担と濃密な連携を行うことで、地域の病院群があたかも1つの病院であるかのように機能する形態であり、その方が望ましいというような話ではなく、病院の未来を開くための限られた選択肢であり、病院の生き残りを賭けた真剣勝負であると言え(2)、その鍵は医療連携部門が握っていると言っても過言ではない。  地域医療連携の円滑な実施には、それぞれの異なる機能間の連携を調整するコーディネーター役が必要であり、さらに、医療従事者および地域住民への教育などの啓蒙活動も必要となる。地域中核病院として自治体病院には、「循環型地域医療連携システム」の中心に位置し、地域でイニシアチブをとり、円滑で効率的な医療資源の活用の推進に向けたコーディネーター役を果たすことが求められる。これが地域中核病院における地域医療連携のビジョンであり、このビジョンに対する医療連携部門のミッションが医療連携機能の強化と言える。
(2)医療連携機能強化への取り組み ①役割の明確化と機能組織の構築   医療連携部門が、ミッションである医療連携機能強化を達成するためには、部署及び各人の役割と目標及び具体的な行動を明確にすることが必要であり、これをマネジメントするにはBSCの手法が有用である。  まず、ミッションの達成に向けたアウトカムを明確にし、「財務の視点」、「顧客の視点」、「業務プロセスの視点」、「学習と成長の視点」という4つの視点で見たときの其々の視点でのアウトカム(中間アウトカム)がどのように関連しているのかを明確にする戦略マップ(図表2)を作成する。次に中間アウトカムを戦略目標とし、その達成に向けた成果の指標、目標値、アクションプランまで明確にしたスコアカード(図表3)を作成する。これにより、医療連携に係わる各人の役割と行動が明確になり、スタッフが一丸となり同じ目標に向かって進むことができる。院内で医療連携に係わる業務を行う部署としては、医療連携室を始め、医療相談室、退院支援や病床管理を担当する部門、予約管理部門などがあげられる。これらの部署が縦割りで運営されていれば、業務の重複や情報の共有化などの改善が図られないまま、其々の部署の職員は日々の業務にしか目がいかない状況となり、医療連携機能の強化は図れない。これを打開する施策としては、BSCにより明確にするミッションの達成に向けたアウトカム、目標数値、アクションプランに基づき、これらの部署の役割を明確にして横の連携を密に行うことが必要であり、具体的には、業務の効率化や情報の共有化に向けた共同カンファレンスの実施や院内医療連携委員会の設置などがある。また、各機能を果たしている複数の部署を地域医療連携センターとして集約し横断的に情報を共有し管理できる機能組織を構成する手段が有効である。

 

②ケーススタディ(収益シミュレーション)   BSCのマネジメント手法により医療連携機能強化を推進するに当たり、その結果が病院経営にどのように関与しているのかを理解しておくことも非常に重要な要素である。病院の経営戦略において医療連携部門がどのような役割を果たし、どれだけ経営に寄与しているのかが明確になることによってスタッフのモチベーションの向上に繋がる。ここでは、診療報酬(平成20年版)にて、医療連携機能の強化よる経済効果として評価できるものをシミュレーションするア)入院時医学管理加算 120点(14日を限度)急性期医療を提供する体制及び病院勤務医の負担の軽減に対する体制等を評価した加算であるが、本加算の施設基準の要件に、「地域の他の保険医療機関との連携のもとに、診療情報提供料(Ⅰ)の(注7)の加算を算定する退院患者数及び転帰が治癒であり通院の必要のない患者数が直近1か月の総退院患者数のうち、4割以上である。」との条件が謳われている。ここで言う割合は、俗に「逆紹介率」と表現するが、割合算定時のパラメータは「総退院患者数」と「診療情報提供料(Ⅰ)の(注7)」と「退院の転帰が治癒の患者」であり、医療法(地域医療支援病院の施設基準における算定)でいう逆紹介率とは異なることに注意しなければならない。    【仮定条件】613床の地域中核病院平均在院日数:14.5日  病床利用率:85% 対象病床数:465床(一般病床:一般病棟入院基本料算定患者)     対象患者数=対象病床×病床利用率×(365日/平均在院日数)          =465床×0.85×(365日/14.5日)          =9,949.4人 /年→ 9,949人/年     収益=対象患者数×入院時医学管理加算×算定日数       =9,949人×1,200円×14日=167,143,200円/年 「増収」イ)地域医療支援病院入院診療加算 1,000点(入院初日)地域医療支援病院である保険医療機関に入院している患者について、入院初日に限り所定点数に加算できるものであり、地域医療支援病院における紹介患者に対する医療提供、病床や高額医療機器の共同利用、24時間救急医療の提供等を評価するものである。   【仮定条件】対象患者数:9,949人/年(算出条件は上記と同様)     収益=対象患者数×地域医療支援病院入院診療加算       =9,949人/年×10,000円=99,490,000円/年 「増収」上記の他、地域連携を実施することが評価されている項目として、地域連携クリティカルパスの使用による「地域連携診療計画管理料:900点」や「地域連携診療計画退院時指導料:600点」、また、在宅療養に係わる「退院時共同指導料2:300点(当該患者の入院医療機関の算定)」、「診療情報提供料(Ⅰ):250点」やその他の指導料や加算があり、これらも医療連携機能を強化することにより増収となる項目である。
③機能強化に向けたポイント   医療連携には、前述の部署の他に医師、看護師、メディカルクラーク、医事部門と院内全域に亘る各職種のスタッフが関係してくる。BSCにより明確なった目標の達成に向け行動を推進していくうえで、本来、医療連携部門のあるべき姿を把握したうえで、その施設の歴史や方針及び該当診療圏の医療資源の量やレベルを勘案し、臨機応変に対応することが必要である。本項では、医療連携部門の業務において、機能強化に向けたポイントを整理する。   医療連携に関する業務としては、大きく「連携実務業務」、「渉外活動業務」、「管理業務」に分けられる(図表4)。医療連携部門の理想形としては、関連する業務を管轄下に置き、関係する各職種を配置した一つの部署として運用する方法が最も効率的と考えられるが、各施設の状況により一概には対応できない現実があり、その施設に応じた形で対応する必要がある。現実的には、医療連携業務に関連する部署を同じブロックに集約することにより機能の集約化を図る「地域医療連携センター」などの運用が有効である。但し、ただ場所を集約するだけでなく、部署間の日常の横の連携を充実させることが必要である。
図表4 医療連携関連業務区 別 業務項目連携実務業務 前方連携 紹介予約対応及び受け入れ調整(診察、検査、入院)、紹介状受付、紹介状登録、返書管理(初期返信、お返事) 後方連携 逆紹介(転退院調整:病院、診療所、福祉施設、介護施設)、患者への情報提供、診療情報提供書の発送渉外業務 地域のマーケティング、地区医師会との関係の構築、連携先の開拓(前方、後方)、連携先との関係構築のフォロー(定期的な訪問と情報交換)、広報活動管理業務 セミナー・講演の企画と院内への協力要請、オープンカンファレンスの支援、統計管理、広報活動、IT化への対応、地域の実務者協議会の運営と参加、地域連携パスの運用管理、院内医療連携委員会の運営、地区医師会との関係の構築

ア)前方連携でのポイント 各部署間での重複及び非効率作業の整理と効率化への交通整理。 照会内容を把握したうえで院内の情報(各科の診察状況、検査機器の予約状況と紹介予約枠、ベッドコントロール状況など)と照合し、適切な判断を下せるスキルを持った人材の配置。 医療連携の運用を明確にし、医療連携部門がイニシアチブをとってコントロールする院内での体制の確立。前方連携業務において、紹介予約(診療及び検査)は病院の窓口であり“顔”となる。地域中核病院としては、初診の原則紹介制を徹底することにより地域医療の連携を推進する立場であり、必然的に医療連携部門が窓口の担当部署となる。ここでは、滞りない予約照会への対応が必要であり、コールセンターの確実かつ適切で迅速な対応が求められるため、院内の情報の整理と院内連携体制も確立しておくことが必要である。返書管理に関しては、「初期返信」は医療連携部門が実施し、「お返事」は担当医師が作成後、医療連携部門から発送することが望ましい。「お返事」の作成は医師の多忙さにより滞りがちだが、メディカルクラークを有効に活用することや、医師の地域医療連携に対する啓蒙活動にて意識の向上を図ることが必要である。

イ)後方連携でのポイント 院内各職種との連携体制の確立。 前方連携との情報共有化。後方連携は、職種としてはMSWが担当する。また、医療連携部門に医療専門職として看護師を配置し、転退院調整に加わることも有効な手段であり、前方連携においても豊富な医療知識を活かすことが可能となる。

ウ)渉外活動でのポイント 地域医療連携に対する積極的な活動の推進。 病院の「営業担当」として、フットワークが軽く、社交性があり、ITに関しての必要十分なスキルを持った人材の配置。    渉外活動では、診療圏内のマーケティングを行い、連携先(前方・後方)の開拓を積極的に実施するにあたり、地区の医師会との関係をまず構築しておかなければならない。地域医療連携は、地区の医師会が主導で進めている場合が多く、こことは良好な関係を構築する必要がある。また、周辺の医療機関に対しては、地域中核病院は大抵が大病院であることで、“上から目線”でものを言ってしまう意識がありがちだが、同じ地域の医療を支える者として対等な立場での対応が大事である。

エ)管理業務でのポイント 地域(医療関係者や地域住民)に対する積極的な働きかけの実施。 院内各職種での医療連携に対する意思疎通の推進。 統括者には、現状分析ができ、課題認識、目標設定、戦略立案、実行評価ができるスキルを持ち、かつ、リーダーシップと統率力がある人材の配置。    管理業務では、関連業務の実施においての各部署、各職種間の調整が主な業務となる。また、セミナーや講演会の企画運営、オープンカンファレンス開催の支援など、連携先と院内のパイプ役となり、院内だけでなく地域をも引っ張っていく役割を担う。また、地域中核病院としての立場から、地域連携パスの普及や電子カルテの地域ネットワーク化などでも地域を引っ張っていく役割を果たさなければならない。
5.まとめ 医療機能の分化と連携が推進される中、地域中核病院としての自治体病院が地域医療の中心としての機能を担うのは至極当然のことである。また、診療報酬においても地域連携の実績が評価され、前述のシミュレーションの通り少なからず経営に寄与することは間違いなく、我々コンサルタントは、さまざまな手法を駆使しミッションの達成に導かなければならない。ただ、一概に地域医療連携と言っても、その地域性や病院の歴史などの要素において様々な障害がある。特に地方(医療過疎地)に行くほどその傾向は顕著である。連携しようにも連携先が少なすぎて十分な後方連携体制が築けなかったり、開業医の高齢化に伴う医療機能の偏りや期待薄な発展性などが現実問題としてあげられる。その他にも障害事項として、院内の職種間の「見えない壁」や、多科受診患者が多数の科の診療所に紹介されることによる経済的な負担増の懸念という問題など多々あげられる。そのため、医療連携室だけが一生懸命に頑張っても成し遂げられない壁となっている。 しかし、各地で参考となる成功例があることも事実である。それらには、「熱意」と「行動力」を持った指導者が存在し、継続的に粘り強く活動しているからに他ならない。 コンサルタントは、上述の手法や前例などを用いて“あるべき姿”を描くことは容易である。だが、それを実現するためには当事者の“やる気”が一番重要な要素であることは間違いない。故に医療連携機能の強化を支援するに当たっては、病院のトップや経営陣の“やる気”のレベルをまず確認する必要があり、もし、そのレベルが低いようなら、その意識改革への導きも医業経営コンサルタントが担うべき役割であろう。

「引用文献」

(1)一歩進んだ医療連携実践 Q&A  東京都連携実務者協議会 2009年4月 株式会社 じほう 発行

(2) 地域医療支援病院と地域連携のありかた      武藤正樹 2004年1月 株式会社じほう 発行
「参考文献」

(1) 医療白書 2009年度版 2009年11月 株式会社 日本医療企画 発行

(2)地域医療連携  生き残るための戦略と戦術    田城孝雄    2009年4月 株式会社 SCICUS 発行

(3) 地域医療を守れ-「わかしおネットワークからの提案」 平井愛山他    2008年8月 株式会社 岩波書店

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